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2023.11.02
【基礎知識】トラブルを未然に防ぐには?静電気対策のポイント
私たちの生活に身近な「静電気」。静電気は、セーターを脱いだりドアを開けるときに“パチっ”とくる自然現象ですが、ものづくりの現場では、不良品の発生や電撃によるケガなどトラブルの原因にもなっています。
静電気は目に見えないため、知らないうちに電子部品を破壊してしまい製品不良となってしまうことも少なくありません。避けて通ることができない静電気ですが、静電気対策のポイントや対策製品を知り、確実に対策することが求められます。
この記事では、工場のトラブルを未然に防ぐ「静電気対策」について解説します。
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静電気対策を行う前に知っておきたいこと
静電気対策を行うには、静電気のメカニズムに加えて、「帯電列」「クーロン力」「静電破壊」について理解を深めることが重要です。
静電気の「帯電列」を知る
帯電列は、静電気発生の傾向をまとめたものです。
帯電列では、材質の異なる物質が接触や摩擦で帯電するときに、その性質によって「プラスに帯電するのか」「マイナスに帯電するのか」を表しています。
物質どうしが接触・摩擦する可能性がある場合、帯電列上で近い位置にある材料を選ぶようにすると、帯電量が少なくなります。逆に、帯電列上の位置関係が遠い物質では、帯電量が大きくなる傾向にあります。
たとえば「ナイロン」と「テフロン」を擦りあわせた場合、ナイロンはプラスに帯電し、テフロンはマイナスに帯電します。
静電気の「クーロン力」を知る
クーロン力は、静電気によって引き合ったり反発したりする力のことです。
静電気を帯びている物質どうしが、磁石のように、同一の極性なら反発し合い、異なる極性なら引き合います。
クーロン力は、ものが貼り付いてはがれなかったり、ほこりを引き寄せるトラブルの原因となります。
〈クーロン力によるのトラブル例〉
- ゴミの付着
- 紙・フィルム等の2枚取り
- 塗装表面のゴミによるムラや外観不良
- パーツフィーダの詰まり
- 成形品の排出ミスや型残り
- 切削時の切粉の付着 など
静電気による「静電破壊」を知る
静電破壊は、静電気の放電によって一時的に高い電圧の電流が流れ、回路を破損してしまう現象です。
静電破壊は知らないうちに電子部品を破壊してしまうこともあるため、電子機器の組み立てラインでは特に注意が必要です。
静電破壊を防ぐためには、「人体帯電モデル(HBM)」と「デバイス帯電モデル(CDM)」の2つの帯電モデルを理解することが重要です。
人体帯電モデル(HBM)
人体に蓄積した静電気が原因で発生する放電です。
作業者がデバイスに触れることで放電し、回路のショートや電子部品の破壊を引き起こします。人体帯電モデルではデバイスに直接触れるだけでなく、金属を介して発生する放電にも注意が必要です。
デバイス帯電モデル(CDM)
デバイスに蓄積した静電気が原因で発生する放電です。
搬送レーンなどで帯電したデバイスが、金属に近づくことで放電し、回路や素子を破壊します。放電によって発生したノイズが、製造装置や検査装置の動作に影響を与えてしまうこともあります。
静電気対策のポイント
静電気対策は「発生させない」「帯電させない」「放電させない」、この3つがトラブルを防ぐポイントになります。
静電気を発生させない
絶縁物を近づけないことや、摩擦や剥離などを最小限に抑えることで、静電気の発生を未然に防ぎます。
またどうしても静電気が発生してしまう場合でも、少ない量に抑えることが重要です。
静電気を帯電させない
ゆっくりと帯電を逃がすことで、静電気によるトラブルを未然に防ぎます。
静電気が発生した時点で速やかに逃がしたり、漏洩させて滞留させないことが重要です。
静電気を放電させない
金属や導体に接触する前に帯電を除去し、静電気によるトラブルを未然に防ぎます。
爆発や引火の恐れのある場所で火花放電させないように、注意が必要です。
静電気の発生を抑えるには
静電気の発生を抑えるには、以下のような対策が有効です。
湿度を高くする
加湿器、噴霧器などで湿度を管理します。相対湿度が低いと電荷の拡散が減少し、静電気の発生が多くなってしまいます。相対湿度を55±5%で管理するのが理想です。
〈湿度と帯電電圧の関係〉
静電気発生源 | 帯電電圧(kV) | |
---|---|---|
帯電物 | 相対湿度10~20% | 相対湿度65~90% |
カーペットの上を歩く人体 | 35.0 | 1.5 |
ビニル床を歩く人体 | 12.0 | 0.25 |
テーブル作業をおこなう作業者 | 16.0 | 0.1 |
ビニール包装資材 | 7.0 | 0.6 |
普通のポリ袋を作業台からつまみ上げる | 20.0 | 1.2 |
ウレタンのクッションのついたイス | 18.0 | 1.5 |
帯電防止剤を使う
帯電防止剤を使い、空気中の水分を吸収して電気を逃げやすくすると効果的です。
剥離や摩擦をゆっくり行う
急激な動作は大きなエネルギーを生んでしまうため、スピードを遅くすることが有効です。
帯電列を利用する
使用している物質を変えることで、帯電量が上がりにくくなります。
帯電物を近づけない
電位差のあるものを近づけると誘導で帯電が発生するため、帯電物を近づけないことが重要です。
静電気を確実に除電するには
静電気対策のポイントをあげましたが、「どうしても発生してしまう静電気」を除電するには、イオナイザーをはじめとした静電気対策製品が有効です。
また、アースにつなぎ静電気の逃がす道をつくることで除電することもできます。
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静電気を逃がす道をつくる
導電性ゴムマットや静電靴、リストストラップなどでアースにつなぎ(接地)、静電気を放電させます。
作業者 | リストストラップ・静電靴・静電服・導電性床など | |
---|---|---|
作業および保管 | 椅子・保管棚・導電性コンテナなど |
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アース(接地)による放電の仕組み
製造現場で利用されているアースは、漏電による感電防止だけでなく、静電気放電による火災・爆発事故などを防止する役割も果たします。アースは、電気抵抗値が106Ω以下であればよいとされています。
ただしアースが有効なのは、帯電している物質が導電体の場合だけで、不導体(絶縁体)では機能しません。例えばプラスチックにアースをつないでも静電気は逃げないため、注意が必要です。